WISH

 もう1年以上も前の話である。今年の秋の空気は『YES or YES』によって彩られるのだろう、そんな予感を抱きながら過ごしていた11月の中旬。カムバ直後の、TWICEのステージを漏れなく視聴するために音楽番組の映像を漁る期間である。とある金曜日、KBSが公式Twitterで放送するMusic Bankを僕は眺めていた。TWICEが出るのはだいたい番組後半だとわかっているが、ステージ前トークを目当てにあまり知らないアーティストのステージを垂れ流していたときのことだった。片耳だけ付けていたイヤホンから、やけに僕好みの曲調でアイドルソングが聴こえてきたのだ。

 

www.youtube.com

 

 それがこのDreamNoteのデビュー曲『DREAM NOTE』である。とにかく、初めて聴いたときに直感で好きだなと思った。この動画のリンクを、自分向けのメモのようにツイートした。他の音楽番組にも出演していたから、その先も何回か聞くこととなったわけだが、この秋の出来事はそれで終わった。「『YES or YES』のカムバ期に、他のアイドルの好きな曲を見つけた」という記憶だけが僕の頭には残り、いよいよ寒さが厳しくなってくる頃にはグループ名も忘れた。

 御察しの通り、なんとも珍しいことに、僕はTWICE以外のアイドルについて何かを書こうとしている。これを書くに至ったきっかけのひとつは、今まさにDreamNoteがカムバを迎えているからである。それから、あらかじめ断っておくと、僕は特別このグループについて詳しいわけではない。これは後で分かると思うが、だからこそ書いているというところもある。勢いだけで短めに済ませようと思っているので、少しの間お付き合い願いたい。

 

 TWICEとともに月日は流れ、2019年6月。何がそうさせたのかは分からないが、秋頃に好きな曲と出会ったという記憶が、夏も近づくこの季節に突然引っ張り出された。僕にとってのTwitterは、記憶の貯蔵庫でもある。先述の通り、動画のリンクをツイートしておいたおかげで、無事再会することに成功した。存分に貯蔵庫としての役目を果たしてくれたわけだ。久しぶりに聴いてみても好きだった。ここに来てようやく調べたところ、David Amber氏の作曲だった。『YES or YES』と同じ人じゃん!とテンションが上がり、もう一度ツイートした。それをきっかけに見てくれたFFの方が、わざわざ僕に「よかった」と感想リプを送ってくれ、嬉しかったのをよく覚えている。

 僕の知らない間に (忘れていたのだから知らない間も何もないのだが)、2ndアルバムも出していたのでそのリード曲のMVも視聴した。これまた同じくDavid Amber氏が作曲や編曲を手がけていた。また好きな曲調だったから、なんだか笑えてしまった。

 

www.youtube.com

 

 顔ファンを自称する僕としては初めての経験だったのだが、そんなこんなで楽曲からアイドルを好きになるというルートを辿ることとなった。では、どんなメンバーがいるのだろうか。今まで聴覚に集中させていた神経を視覚に送り込み、曲を聴きがてらMVをじっくり見てみることにした。…………あれ?

 

f:id:clamperl:20200114031310p:plain


 なんかめちゃくちゃ顔が良い女の子いるんですけど???

 

 流石にこの通りに叫んではいないけれど、実際まあまあの声量で「えっ」とは言った。推しを初めて見つけたときの感情を覚えているだろうか?新たな推しと出会うたびに、全てはこの瞬間から始まったんだよな、と思い出すあの感情。

「あれ今すごい顔が良い人いなかった?気のせい?角度とか映り方の問題?あ、また映った、やっぱり可愛いな...うん可愛いよね?ちょっとカメラ速いな、止めてもらえる?また映った!えっ、あれ誰なんだろうマジで、調べよっと」

 個人的な経験でしかないが、動画だったらこんな焦燥感とともに訪れる印象がある。もう味わうことはないと半ば確信していた衝撃を、油断していたところで久々に食らってしまった。とりあえず、TWICEを推す中で培ったK-POPコンテンツ情報網を生かし、画像や動画を次から次へと消化していった。

 

 彼女の名前はハンビョル。2003年10月13日生まれのグループ最年少だ。最年少のメンバーを好きになりがちなのは、その年齢でもグループに加入させるべきだと判断されるルックスを兼ね備えているから、という因果関係があるのではないだろうか。知らんけど。

 思うに「可愛い」には狭間がある。ある程度の年齢以下の子どもに対する「可愛い」は、およそ小動物的な枠組みで見た可愛さの視線であって、それを表明することで一般的には子ども好きというレッテルを得られる。また、自分よりも少しだけ歳下、あるいはそれ以上の年齢の相手に対する「可愛い」は、容姿の端麗さへの純粋な称賛であったり、嫌な言い方をすればときには評価であったり、何らかの形でひとつの意見として機能しているように思う。問題は、この両者の間にある「可愛い」である。どこからどこまで、と明確に線引きできるものではないのだが、個人的になんとなく言いづらい範囲があるのだ。気にしなくてもいいレベルの、本当になんとなく。そして、僕にとっての2003年生まれはその狭間に該当する。

 仮に日本デビューが決まって、仮にショーケースなんかが用意されて、仮に接触イベントが開催されても、参加に一切躊躇しないと言ったら嘘になるな、と思った。これは、想定されるファン層と自分との比較でもある。今はやっぱりTWICEに情熱を注いでいたいということもあるし、積極的な関与はしづらいけれど活動はしっかり追っていくことにしようと決めた。なにせハンビョルさんの顔が好きなので。言い忘れていたけれど、他のメンバーも綺麗な顔立ちなのである。

 

 ところで、僕が持つK-POP業界についての知識はかなり限られている。そもそも、偶然TWICEを好きになったオタクでしかないから、名前だけ知っているアイドルグループがたくさんいるという状態だ。どのグループがどの事務所所属だとか、それぞれのデビューまでの経緯だとか、正直ほとんどあやふやなままここまで来た。グループの知名度も公式垢のフォロワー数でしか判断できない。だから、僕の感性がこの世界の多数派が持つ正しさの軸に乗っているかはわからないのだけれど、DreamNoteを調べる中で、大好物であるDance Practiceの動画にまでたどり着いたとき、見ていて気持ちのいいダンスに美しさを感じた。

 

www.youtube.com

 

  単純な動きで構成されているからなのか、メンバー同士の背格好が比較的近いからなのか、動きが揃った瞬間、異様に統率が取れているように見えるな、と思った。0:14付近の急激な時間の止まり方とか。2:28からのメンバーが前後に重なるシーン、テンポが早いわりに後ろのメンバーがかなり正確に隠れるの楽しすぎる。

 

www.youtube.com

 

 0:34の部分、全員の左足の移動距離と速度が揃ってるせいで、初めて見たときに床がスライドしているような錯覚にとらわれてひとりでウケた。ところどころ挟まる手拍子も、8人いるにしてはあまりに1音だし。個々の力だけでどうにかなる話ではないから、全員でたくさん練習したんだろうなと思うと好きになってしまう。

 

 僕のどうでもいい感想は置いておいて、とりあえずこうして無事好きになり、たまに動画を見たり曲を聴いたりしながら、次のカムバを心待ちにしていた。そうして迎えた2019年9月、いやに改まった公式ツイートが僕のTLに現れた。

 今まで目にした覚えがないのだが、「"안녕하세요.(事務所名)입니다." + URL」という構成のツイート、リンク先にいいお知らせが載っているパターンは存在するのだろうか?不安を抱えながら恐る恐る開くと、概ねこんな内容が記されていた。

「メンバーのハビンが足の怪我を理由に、ハンビョルが学業専念を理由にグループを脱退し、今後は6人体制で活動する」

 好きになったアイドルが、自分の前から姿を消した瞬間だった。

 

 好きであると公言するほど好きになっていく、というのはよくあることだ。僕はたまに言及するという程度だったから、その例には該当せず、寂しくありつつも一旦普通に受け入れた。少しの距離をもって応援すると自分で決めていたし、リアルタイムで8人の活動を見たのはそれこそあの秋頃の音楽番組だけだったし、そうそう、元は曲から好きになったわけだし。彼女を見られないのは残念だけど、仕方ない。彼女にとっては、これがより良い道なのかもしれない。そう諦めた。これが夏の終わりの話である。

 季節がひとつぶん進んで年末、日本でのイベントが告知された。年始のカムバックも発表された。アルバムジャケットやティーザー映像が流れ込む。MVを見てみると、作曲家は違ったけれど、なかなかに好きな曲だった。Music Bankの映像を検索すると、メンバーの動きは相変わらず揃っていた。赤基調の衣装が4人と黒基調の衣装が2人だった。この辺で急に寂しくなって、何か書き残そうと思い立った。

 

 初めて出会ったあの秋に、好きだと思った感情を軽く流さなければよかったのかもしれない。再会を果たしたあの夏の初めに、力を注げばよかったのかもしれない。現実的に考えて、どれだけ推していても、9月までの間に会いに行く選択を取ることはできなかっただろうけれど、もう少しマシなやりようがあったと思う。

 iTunesじゃなくて、円盤を今からでも買おうかなと思った。Amazonで1stアルバムを調べてみたら、廃盤と表示された。タワレコHMVも取り扱っていなかった。中古なら少し見つかるというくらいの品揃えになっていた。(どこかで新品の『Dreamlike』を見つけたら買っておいてください、僕が買い取るので)

 僕にこの文章を書かせたのは、好きなアイドルを布教したい!といった動機ではなくて、後悔とか懺悔とか、どちらかと言うとそういった後ろ暗い気持ちである。同じ轍は踏まないぞ、という決意表明でもある。推しは推せるうちに推せ、そういうことだ。

 

 僕の話はこれで終わり。もちろん、彼女たちのことは応援し続けようと思っている。スミンさん綺麗だし。ただ、どんなアイドルについても「応援し続けられる」と信じ込んではいけないのだ。物事には、制御できない終わりが訪れる。そのためにも、好きだという気持ちはそれに気づいた瞬間に大切にしたい。最後に、これを読んでくれた皆様が、素敵なオタクライフを過ごせることを願っています。

 

www.youtube.com

 

널 몰랐었던 날 모든 게 아쉬워 (あなたを知らなかった日 その全てが惜しい)